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知財判決ダイジェスト

特許 令和6年(行ケ)第10002号「土木工事用不織布およびその製造方法」(知的財産高等裁判所 令和6年5月23日)

【事件概要】
 本件発明2は、引用発明及び技術常識に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるとして、特許無効審判の審決のうち、請求不成立とした部分が取り消された事例。
判決要旨及び判決全文へのリンク

【争点】
 本件発明2は「前記着色繊維の混合量が重量比で10~90%の範囲である」のに対して、800Z製品(引用発明)は「白色繊維と黒色繊維の比率が白色:92.5%、黒色:7.5%であ」る点(相違点2)に係る構成は、当業者が容易に想到し得るか。

【結論】
ア 相違点2に係る技術常識について

 …上記各文献の記載によれば、…土木用不織シートにおいて、カーボンブラックが、耐候性、耐摩耗性及び遮光性の向上、光の反射による作業者への作業上の障害の防止、景観を損なうことの防止等を目的として、所望の効果が発揮できる量で…添加されるものであることが…技術常識であった…。

イ 本件出願日当時に存在した土木工事用不織布について

 …以上の事実によれば、土木工事用の防砂シート…として用いられる製品の色の濃さは一様でなく、白色の製品、灰色の斑模様の製品とともに濃灰色ないし黒色の製品も使用されていることは…技術常識であった…。

ウ 本件発明2における黒色繊維の混合比率の意義について

 …本件発明2において不織布を白色繊維と黒色繊維の混合物としたことの意義は、…表面を斑模様として、特定した斑点間の距離を伸長前と伸長後に測定することで、不織布の伸び率を把握…できること、並びに、着色繊維の顔料にカーボンブラックを用いることで不織布の光の反射を抑えて施工性を改善するとともに、耐候性及び耐摩耗性を高めることにある…。

 本件明細書等では、…着色繊維の混合量について、適宜選択が可能であるとしつつ、…混合量を10ないし90%…とし、実用上は20ないし80%…が望ましく、機能的には50%…が最もよいとしており、その理由として、…20%より小さいと…全体色が薄くなって斑が形成され難くなるとの問題、光が反射しやすくなるとの問題、及び耐候性の問題が生じるとし、…50%を超えると…全体色が濃くなって肉眼で斑を識別することが難しくなり、混合量を上記の範囲とすることで、耐候性の確保と、肉眼で識別可能な斑を形成することと、光の反射の抑制といった複数の要素を同時に満足することができるとされている…。

 …混合比率を変えた実施例1ないし7と比較例1及び2による試験によれば…混合比率と、繊維の縦及び横の強度及び伸度とは、相関関係はない…。また、光の反射性は、…混合比率を高めるほど眩しさを感じにくくなる…。そして、…混合比率を、10ないし90%の範囲とした場合と、10%未満とした場合との効果の差異は…実施例及び比較例による試験からは明らかでない。

 以上によれば、本件発明2について…混合比率を高めると、①斑が形成され、…不織布の伸び率を把握することが可能となり、②光の反射を抑えて眩しさを感じにくくなり、③耐候性及び耐摩耗性が高まり、…混合比率を高くしすぎると、全体の色が濃くなって斑を識別するのが困難になるという結果が生じるが、…混合比率を10ないし90%…としたことに特段の技術的意義があるとは認められない。

エ …そうすると、引用発明1の土木工事用不織布において、耐候性、耐摩耗性及び遮光性の向上、光の反射による作業者への作業上の障害の防止、景観を損なうことの防止、並びに不織布の伸び率測定のための斑模様の明確さを好適なものとするために、カーボンブラックにより着色した黒色繊維の比率を増減することは、当業者の設計事項にすぎない…。

 また、白色繊維と、カーボンブラックにより着色した黒色繊維を混合した土木工事用不織布において、黒色繊維の割合を高めれば、斑模様が濃くなって…不織布の伸び率の測定が容易になるほか、耐候性、耐摩耗性及び遮光性の向上、光の反射の抑制といった効果があることが、上記のとおり…技術常識であったといえるから、黒色繊維の比率を7.5%より高める動機付けがあった…。

 以上によれば、引用発明1について、黒色繊維の混合比率…を10ないし90%…とすることによって、相違点2に係る構成を導くことは、当業者が容易に想到することができた…。

【コメント】
 特許庁は、800Z製品(引用発明)は一定の品質を保って製造されるものであり、白色繊維と黒色繊維の比率を変えるような設計変更は通常行わないと判断した。しかし、裁判所が判示するとおり、製品の同一性又は品質を維持するために、仕様書で定められた仕様の遵守が求められるとしても、製品の仕様の一部を変更して、新たな仕様の土木工事用不織布の製品を開発、製造しようとすることは、当然であろう。

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